しゅうぺいの学びログ

本から学んだことをもっと世界に広めたい。小説・ビジネス書・TEDの感想などを綴ります。

切なさの中に笑いあり ほっこりできる物語 『陰日向に咲く/劇団ひとり』

 

陰日向に咲く劇団ひとり』を読みました。

 

こんな人におすすめ

 

陰日向に咲く

陰日向に咲く

 

 

 

 あらすじ

 ホームレスを夢見る会社員。売れないアイドルを一途に応援する青年。合コンで知り合った男に遊ばれる女子大生。老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー。場末の舞台に立つお笑いコンビ。彼なの陽のあたらない人生に、時にひとすじの光が差す―。不器用に生きる人々をユーモア溢れる筆致で描き、高い評価を獲得した感動の小説デビュー作。

 

このシーンにグッときた!

 だから私、頑張ったんだ。買ってきたメモリースティックを爪やすりで少しずつ削って、三時間ぐらいかかって、そのメモリースティックを三分の一ぐらいの大きさにしたの。もう床のそこら中、メモリースティックのカスだらけ。人生でいろんなカスを見るけど、メモリースティックのカスを見るのは、それが最初で最後だろうね。でも、その甲斐あって、SDカードが入るところに、小さくなったメモリースティックが見事、ぴったり入った。

 でも、ただ入っただけ。デジカメの電源入れても、デジカメは知らんぷり。そこに何か入ってることにも気がついていないみたいだった。 

機械オンチの女子大生が、デジカメ相手に奮闘するシーン。これは笑った。ありえないでしょと思いつつも、思わずフフッと笑ってしまった。おおまじめにやってる女の子の姿が想像できていい。

 とくに深いシーンではないけれど、なぜか心をほっこり幸せにしてくれるような、ほほえましいシーンだと思う。

芸人さんが書いた本だけあって、「笑い」の部分はセンスが感じられる。

 

感想

これでデビュー作ならすごいと思う。ストーリーもよくできている。劇団ひとりさんは小説家が本業ではないので、表現力やボキャブラリーにおおっと思わされることはなかった。でも、語尾や口調によって、登場人物がとても魅力的に描き出されている。

サラリーマン、ホームレス、アイドルオタク、女子大生、ギャンブル好きの気弱な男、芸人と多彩なキャラクターを巧みに描きわけている。芸人さんだけあって、普段からアンテナを高くはっているのだろう。人間観察力がとても優れている。そして、読み手の頭の中にそのイメージを創り出せるだけの文章力もある。魅力的で上手な文章だと思った。

陽のあたらないところだとしても、みんな一生懸命に生きている。空回りしても、それでも生きていく。そんな登場人物の姿に、心がジーンとした。そして、ただ切ないだけの小説に終わらずに、エッセンスとして笑いの要素もある。

 

読みやすくて、温かい気持ちになれる小説でした。