ぼくは勉強ができたほうがいいと思う 『ぼくは勉強ができない/山田詠美』
『ぼくは勉強ができない/山田詠美』を読みました。
タイトルが印象的なので以前から読みたいと思っていた作品でした。
こんな人におすすめ
- 学校が嫌いな人
- 「みんなと同じ」に疑問を感じる人
あらすじ
ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ―。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ!凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。
この文章にグッときた!
ぼくは、ぼくなりの価値判断の基準を作って行かなくてはならない。忙しいのだ。何と言っても、その基準に、世間一般の定義を持ち込むようなちゃちなことを、ぼくは、決してしたくないのだから。ぼくは、自分の心にこう言う。すべてに、丸をつけよ。とりあえずは、そこから始めるのだ。そこからやがて生まれていく沢山のばつを、ぼくは、ゆっくりと選び取っていくのだ。
世間一般の定義を否定するには、まだまだ無知であることを自覚する必要はある。ただ、周りに流される人間になりたくない。自分は自分でありたいというのは分かるかな。ああだこうだ外野から口を出すだけで、自分では何も行動しない大人にはなりたくない。
感想
読む時期によってかなり感じ方が変わる作品じゃないかと思う。高校生が主人公の話だが、その年代で読むには早い気がする。高校生にとっては、秀美のようなクールで世界を俯瞰するようなタイプの人間はかっこよく映るのではないだろうか。勉強ができないからといって、生徒に「バツ」をつける社会は良いとは言えないが、学校的なものや社会の常識を批判するには、高校生は若すぎると思った。「成績」というものさしで一律に評価を下す社会を批評するにしても、まずは勉強をして知識をつける必要がある。そして、身につけた知識という材料をもとに自分で考えられるようにならなければならない。
文章自体は一人称で語られていて、物語の世界に入っていきやすい。不思議なリズム感もあってかなり読みやすい文章だった。やや偏った意見を貫いた作品なだけに、そのまま受け入れるのではなく、自分なりに解釈しなおす必要のある本だと思う。考えさせられる小説だった。このあたりが名作と言われるゆえんなのだろう。